意外に勘違いしている、相手の立場に立つということ

 叱られている時などによく、「相手の立場に立って考えなさい」と言われたことがある人は多いと思います。でも実際のところ、お互いの脳が繋がっているわけではないので、中々相手がどう思っているのかわからないですし、想像したとしても確認しないことには合ってるかどうかわからないものです。

 ただ相手の考えを推察するのが割とできる人と、いつも的が外れていてできない人がいるようです。しかも、相手の考えを読めないと出方がわからないので、間違った対応をし、対人トラブルを頻発させ、不幸せになる原因になります。そこで今回は、この両者の違いはどこにあるのか、分析します。

相手の考えを読み間違える人

 では、相手の立場に立っているつもりで、推察できていない人にありそうなパターンを列挙していきます。

「自分だったらこうする」がベースになっている

 相手の立場に立っているつもりになってる人がよくやりがちな、ベースの思考パターンがこれです。発達障害の人に多いそうですが、相手を自分に置き換えて考えるやり方をしてしまっているのです。

 「もし自分がこのシチュエーションになったらこうする」とか、「もし自分がこうされたらこうリアクションする」とかといった思考法で、要は自分と相手のシチュエーションだけを入れ替えているのです。でも実際には価値観や判断軸も違うし、そうなった相手の背景もあるのですが、そこまでチェンジした上で考えるという習性がないんです。

 その結果、立場を入れ替えたとしても自分の価値観と自分の判断軸でしか考えておらず、自分視点から抜け出せず、相手のことを考えない人、自己中な人という評価を得てしまいます。

深く考えず、決めつける癖を持っている

 頭を使うのもかなり面倒な作業なので、脳は本能的かつ無意識にサボる癖があります。そこで採られやすい手段が、「決めつけ」です。決めつけてしまえば、それ以上考えなくてよくなるので、脳はサボることができます。

 ただ、深く考えての判断ではないので、非常に浅はかなものになりがちです。しかも、決めつけはパターン化された思考なので、ケースバイケースで考えていません。なので、個々の相手と合うはずがありません。だから、読みが外れるのです。

人の行動パターンの引き出しが少ない

 とはいえ、知識と経験がたくさん身についていれば、パターン化された思考でもそのバリエーションによってカバーすることができなくはありません。しかし、相手のことを推察できていないということは、この引き出しも少ないことがわかります。

 そして、これはいくら人付き合いの数をこなしても、自分の糧として身につけるノウハウが無かったら、増えていきません。単純にたくさん人と合えば、勝手に身につくというものでもないのです。

誘惑に負けやすく、我慢や妥協を知らず、自分を優先しがち

 相手の気持ちがわかるわからない以前に、尊重する気が無いタイプです。仮にあったとしても、目の前に自分の利益になるものがあると、そちらに目が奪われ、結果的にその気が無くても相手の立場を蔑ろにしてしまいます。

言葉だけで判断する

 必ずしも相手が本音をいうわけではないし、お互いの国語力のレベルにもよるので、言葉を額面通りに解釈すると相手の考えを読み間違います。

 例えば、社交の場ではお世辞や建前で話す機会が多いですが、真に受けるとひんしゅくを買います。友達付き合いでも、悩んでいるにもかかわらず相手が「大丈夫」と言って、本音を言わないケースもよくあります。ここでどうしたのか尋ねなかったら、空気読めないヤツと判断されるでしょう。

自分を疑わない、相手に確認しない

 そもそもの話として、読み間違えているかもしれないことに気付いていないことのほうが、多いかもしれません。そこに気づくためにはまず、自分を疑うことから始まりますが、大抵の人はやっていないのではないでしょうか。

 そして、疑う癖を持っていたとしても、それが合っているかどうかは当人に聞かないとわかりませんが、ほとんどの人はやっていないでしょう。これでは、相手の考えが読めているのかどうか、わかるはずありません。

読み間違いからおこるトラブル

 このように相手の立場に立てないケースが様々あることが、考えられます。では、相手の立場に立てないとどうなるのでしょうか?

自分基準でしか考えない

 共通して起こる現象としては、自分の事しか考えられなくなる事でしょう。相手の視点、相手の価値観でシミュレーションしないのですから、常に自分視点、自分基準の考えや判断になります。

 その結果、相手のためにしたつもりが、自分の利益にしかなっていないとうことが起こります。そして、そのことに自分が気づいていないため、傍からは自己中心的、利己的という評価を受け、遠ざけられます。

ありがた迷惑

 仮に自分が相手のためと思ってしたことであっても、相手の価値観や相手のニーズを汲み取っていないので、的外れなものとなります。それは相手にとって余計なお世話で、ありがた迷惑にしかなりません。

 これが何度も続けば、空気が読めない人、独りよがりな人というレッテルを貼られてしまいます。

仕事にも支障が出る

 お客様のニーズを汲めないので、希望に応えられなかったり、ヒット商品を生み出せなかったりします。そうなれば、営業成績が伸び悩むことになるでしょう。

 相手が上司だった場合は、気の利かない人、TPOをわきまえず、臨機応変に対応できない人となり、仕事での評価が下がります。

自分のエゴを押し付ける

 立場を入れ替えても自分の価値観で考えるわけですから、エゴの押し付けになります。相手の価値観を排除していることにもなりますので、思想、信仰、言論の自由を奪うことにもなります。それは相手を尊重していないですし、民主主義の精神に反しており、人権を侵害しています。

ケンカや口論が増え、人間関係が悪化する

 一番問題になりやすいのはこれでしょう。自分以外の価値観があるのがわからないので、自己中心的にならざるを得ないのですから、わがままに映ります。

 そうなれば普通は相手が憤慨するのは容易に想像できるのですが、自分視点でしか見ていないので他の視点に気づかず、他人の判断軸の存在を知らないので、そこに抵触してしまいます。

 結果、頻繁に地雷を踏んでしまい、ケンカや口論になるケースが増え、上手く人間関係を作ることができなくなります。

欲求不満が増え、精神が不安定に

 人間関係のトラブルが増えれば、おのずと精神にも悪影響が出ます。欲求不満やストレスが蓄積することになるので、情緒不安定や鬱傾向、自己肯定感の低下を招きます。これが長期間続き、生活に支障が出るようになると、精神疾患の発症や再発と診断されます。

間違わずに相手の立場に立つには

 これらのトラブルを回避するためには、相手の立場、判断軸で物事を考えられるようにならなければなりません。では、どうしたらよいのでしょうか?

自分の価値観、判断軸を一時的に脇に置いておく

 自分と相手は別の生き物なので、考え方、価値観、判断軸は異なります。そこから導き出される決断も異なるものになります。家族であっても遺伝的要素、環境、知識、知能など、全く同じということは有り得ないからです。まずこのことを肝に銘じなければなりません。

 なので、自分の軸は一時的に脇に置いといて、相手の軸で物を見て、相手の価値観だったらどう判断するかを考えるのです。

 ただし一部の人で問題になるのが、「自分の考えや価値観を捨てろということですか?」とか、「自分のほうが相手に合わせろということですか?」と思っていることです。これは違います。こういう人は、全ての物事を自分と紐づけて考える癖を持っている人です。通常は精神発達の過程で徐々に他人と自分を切り離していくのですが、それができずに止まっているのです。

 しかし、自分の頭の中で一時的に相手の価値観で考えること自体、実害はあるでしょうか。ないはずです。むしろ相手の出方が読めるようになれば、角を立てない対策が打てるので、自分の価値観をキープしながら柔軟な対応ができるようになります。

 実際、会社で自分の意見を通そうとした際に、上司の都合やポリシーを無視して、自分の考えをダイレクトに伝えたら却下されるでしょう。ここで相手の立場に立てたら、先回りできたり一段深い考えになったりして、上司からの印象が良くなり、自分の考えを採用してもらいやすくなります。しかも、採用されているということは、自分の考えを捨ててないですよね。

 相手の価値観で考えるのは、あくまで自分の価値観を通すための手法に過ぎないのです。

個々ではなく総量で、手に入れてない物ではなく手に入れた物を見る

 相手の立場に立てていない人というのは、どうしても個々の物事に集中し過ぎて、周りが見えていないことが多いです。

 例を挙げましょう。あなたの周りには、A、B、C、Dの4人がいます。あなたは今何も持っておらず、Aはリンゴ、Bはミカン、Cは桃、Dは梨を持っているとします。あなたにはリンゴがないので、Aから半分もらいます。ミカンもないですから、Bから半分もらいます。さらに、C、Dからも半分ずつもらいます。

 一見半分ずつ分け合ったので平等のように見えますが、違います。A~Dは元々持っていた果物の欠片しかもっていません。つまり1/2だけです。しかしあなた<B>だけ</B>は、4人から<B>「全種類」</B>もらっている上、分量に関しても1/2×4で、2個分となります。これは公平ではないので、相手の立場にたった判断とは言えません。

 なので、手に入れたものの総量を見ないと、相手の立場に立った考えとはなりません。

面倒くさがらずに、複数のパターンで、しっかりと考える

 決めつけ癖があるという人は、怠けたいという脳の本能に流されている人です。楽ではありますが、それではいつまでも相手の視点を身に着けることができないため、自分本位のままで、良好な人間関係を築くことができません。

 そもそも、人間関係は人類の長年のテーマで、簡単に決めつでこなせるほど容易なものではありません。お釈迦さまや古代ギリシャ、ローマの哲学者、古代中国の孔子ですら長い間答えを見出せずにいたのに、一凡人に過ぎない我々が直感でわかるなど、過信にしか過ぎません。

 なので、しっかりと自分で考える習慣を身に着けることが、まず大事です。

合ってるかどうか確認する

 恥ずかしがってやらない人がほとんどだと思いますが、確認しないことには合っているかどうかわかりません。

 さらに確認することで、他人の価値観や判断軸の引き出しが増えるので、相手の立場に立つ精度が上がります。そうすることでズレを修正できますし、客観性も身に着きます。

言葉だけに頼らない

 人間のコミュニケーションは、言葉だけで行われるものではありません。表情や仕草、体調にも表れ、むしろそちらのほうが真実を伝えている場合も多々あります。

 さらに、言葉だけでは表現しきれないものも無数にあり、言語だけでは全体の30%しか読み取れなかったという研究があります。

 なので、言葉以外の変化にも目を向けましょう。

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