現在、日本をはじめ、先進諸国を中心に多くの社会福祉が提供されている。生活保護、年金、介護、医療、保育、学校教育、保険、就職支援、職業訓練、手当て、デイサービス・・・挙げればキリがないほど多くの福祉サービスが存在する。
しかし、こういった福祉の充実を図ってきた欧州の先進諸国が、今現在規模の縮小へと舵を切り始めている。あれだけ理想的な福祉国家としてもてはやされてきたのに、なぜここにきて高福祉をやめる決断をしたのか?その背景には何があったのか?
高福祉を断念してから景気回復したスウェーデン
まず見ていきたいのはスウェーデンだ。総じて高福祉で有名な北欧において、雄とされる国である。1990年代スウェーデンは世界最高レベルとも言えるほど手厚い福祉政策を採っていた。医療費や学費(大学も)は無料、失業保険や傷病保障も現役時とほぼ同額が受給できるほどに厚遇されていた。
すると異変が!この制度を導入して以降、労働者の病欠率が異常に跳ね上がったのだ。それはそうだ、働いても働かなくても収入が変わらないのなら、働かないに越したことはない。だから多くの国民が働かずにお金をもらうほうを選んだ。働いたら負けの構図の誕生だ。
しかもこの高福祉を維持するために、国民負担率は最高で70%を超えたという。苦労して働いても70%持っていかれて30%しか手元に残らないのなら、何のために働いているかわからず、幻滅するのは無理もない。お陰でイノベーターである起業家や資産家は、こぞってスウェーデンから逃亡した。あの有名家具店IKEAの創業者イングヴァル・カンプラードもその1人だ。福祉はお金がかかるが、受給者はいわゆる弱者でもあるから本人からはとれない。だからそのしわ寄せは富裕層へいき、逃亡の理由を作ってしまうのだ。
しかもこの高福祉を維持するために、国民負担率は最高で70%を超えたという。苦労して働いても70%持っていかれて30%しか手元に残らないのなら、何のために働いているかわからず、幻滅するのは無理もない。お陰でイノベーターである起業家や資産家は、こぞってスウェーデンから逃亡した。あの有名家具店IKEAの創業者イングヴァル・カンプラードもその1人だ。福祉はお金がかかるが、受給者はいわゆる弱者でもあるから本人からはとれない。だからそのしわ寄せは富裕層へいき、逃亡の理由を作ってしまうのだ。
これにより税収が激減。スウェーデンは財政危機におちいった。国外からも「福祉病」と言われ、揶揄される有様だったが、痛みを伴いながら大改革をし、福祉削減に舵を切った。以降危機を脱し、沈静化した。
経済学者ハイエクの予言
実はこうなることは経済学者のフリードリヒ・フォン・ハイエクは見抜いていた。著書「隷属への道」で、最初は慈悲の心から良かれと思って導入した福祉制度であっても、国民にとって次第にそれが当たり前になり、自立した大人から国に依存しないと生きられない従順なペットに成り下がってしまうと。それは国への隷属であり、国なしには生きられない自由のない生活になると警告していた。
福祉拡大の末路
では、福祉を拡大すると具体的にどういったデメリットが生じるのだろうか?心理学や行動経済学の研究をもとに紹介する。
① インセンティブの喪失からくる意欲低下
まず挙げられるのが、意欲低下だ。働かなくても十分な生活費が得られるなら、労働に対するインセンティブ(動機)がなくなる。というのも自由時間を喪失する分だけ働くほうが損になるからで、労働はむしろ罰ゲームにしかならない。となれば、再就職しようとする者やリスキリングする者は現れなくなり、一生福祉のお世話になろうとする者が後を絶たなくなる。
さらに既存の労働者からしても面白い話ではないから、勤労意欲を失わせる。そうなると生産性は低下し、景気およびGDPが低下する。スウェーデン没落の主要原因である。
② サマリア人のジレンマ:自立の喪失
ノーベル経済学賞受賞者のジェームズ・ブキャナンによる警告である。聖書に良きサマリア人というのが登場するのだが、善人なので困っている人がいると何度でも助けてくれる。
しかし、助けられた人はこれを学習し、毎回助けてもらおうとする。そうすると助けられる側が固定化し、一向に自立しなくなる。依存関係が成立してしまい、いつまで経っても自立のためのスキルや意欲をつけようとせず、すねをかじるだけの人間になる。
③ ネズミを使った実験
ネズミを使った社会実験がある。水も餌も住処も無限に与えられる環境で、ネズミがその後どうなるか経過観察をした実験だ。
水や餌を自分で捕りに行く必要がないので、最初は繁殖し個体数が増えた。しかし、暇を持て余して毛づくろいばかりするようになったり、無意味に仲間同士でケンカを始めたりした。さらには動くことも放棄して、繁殖活動もしなくなった。結果として個体数は減少し、最後には全滅した。
これは現代の先進国の惨状とよく似ている。
④ コブラ効果
これはインドでコブラ退治のために行われた施策から起こった悲劇的末路についた名前だ。具体的にはこういうものだ。
毒蛇であるコブラは人間にとって天敵であるため、コブラを捕まえた者には報奨金を支払うことを役所は決めた。最初のうちはコブラ減少に効果を発揮したが、次第にコブラが大量に役所に持ち込まれるにもかかわらず、減らなくなった。おかしいと思った役人は住民の家々を回ると、なんと自宅でコブラの養殖をして人工的に増やしていた。これでは意味がないと報奨金を打ち切ると、不要になったコブラは野に放たれて、以前よりもその数が増えて被害を大きくしてしまった。
つまりお金のバラマキをすると大量に群がるから、それが補助金ビジネスになってしまうという悪習である。そしてそれが大量の弱者(ここでいうコブラ)を生み出すことになり、余計に被害を拡大させてしまう構図ができてしまう。
⑤ ベーシックインカム実験の失敗
ここ近年、ベーシックインカムの必要性を唱える声が出つつある。実際にはいくつかの国で実証実験が行われている。
だが、いずれの国でも望むような結果を得ていない。フィンランドではベーシックインカムをもらっても仕事を辞めなかったという研究結果が出されていたが、被験者が少数で汎用性が低いのと、エリートばかり集められていて元々労働意欲が高かったというのもあって、今ではエビデンスにならないとして、学会では否定されている。
同様の実験はカナダでも行われたが、メンタルヘルスの改善は見られたものの、雇用の改善や新しい仕事への挑戦への効果は見られず、現状維持を続けてしまった。
同様の実験はカナダでも行われたが、メンタルヘルスの改善は見られたものの、雇用の改善や新しい仕事への挑戦への効果は見られず、現状維持を続けてしまった。
400年前の新天地アメリカの開拓地
さてここで、約400年前のアメリカでの失敗談をする。
1620年に帆船メイフラワー号に乗ってやってきた清教徒「ピルグリム・ファーザーズ」は、新天地で理想的な暮らしをしようと開拓を始めた。そこでは相互扶助の理想の元、作物を共同倉庫で管理し、必要に応じて平等に分配していた。社会主義・共産主義的システムの運用だ。
しかしピルグリム・ファーザーズは、入植してからたった1年で飢饉が発生し、半数が餓死した。理由は簡単だ。労働負担の不均衡によってボイコットが相次いだからだ。
仕事は若者へ集中。すると、「なぜよその家族のために働かなくてはならないのか?」という不満が募り、仕事をサボり始めた。それが次第に全体へ波及し、終いには全員意欲を失った。結局、「みんなのもの」という考えは裏を返せば「誰のものでもない」ということで、労働へのインセンティブが働かなかったのだ。
そこで指導者のブラッドフォードは、土地の私有化を認めた。すると、そこから得た作物は自分のものにできるインセンティブが働き、労働意欲は回復。寝込んでいた者も働くようになり、生産量は劇的に上昇。飢餓はなくなったとのこと。
そこで指導者のブラッドフォードは、土地の私有化を認めた。すると、そこから得た作物は自分のものにできるインセンティブが働き、労働意欲は回復。寝込んでいた者も働くようになり、生産量は劇的に上昇。飢餓はなくなったとのこと。
結局、相互扶助の崇高理想は不満が生じ、そこから怠慢を招き、貧しさを生む。反対に人間の欲望に従った場合は、本能的に意欲を掻き立てられ、行動につながるという身も蓋もない結論になったのだ。
ソ連崩壊前後のロシア
さらにここで、ソ連崩壊前後の事例もつけ足そう。ソ連といえば冷戦時社会主義の親玉としてアメリカと並ぶ超大国だった。その社会体制ゆえ、社会保障の充実を国是として推進してきた。しかし計画経済による慢性的な経済低迷と生産力の低下の中での社会保障の充実という矛盾を抱えていたことから、多額の財政赤字を抱えていた。
そこで打撃となったのが、アメリカのレーガン大統領によるレーガノミクスだ。これによりアメリカ経済は増進。税収増によって防衛費を増額する大転換を実施した。ソ連もこれに対抗せんとして急遽防衛費を増額したことで、財政危機におちいってしまった。この危機を乗り切るべくゴルバチョフ書記長は市場経済の導入を試みるも、エリツィン・ロシア大統領の独走もあってソ連は崩壊してしまった。
このあおりでストップしたのが、元々財政面で行き詰まっていた社会保障だ。苛烈なソ連支配もあって地酒であるウォッカの消費量が多く、肝臓病や腎臓病を患う国民性がロシアにあるのだが、社会保障がストップしたことでこれらの患者の治療が滞ることになった。透析治療の費用もまかなえなくなったために、放置されることになった。結果としてこの影響で約60万人が見殺しにされたといわれる。
そこで打撃となったのが、アメリカのレーガン大統領によるレーガノミクスだ。これによりアメリカ経済は増進。税収増によって防衛費を増額する大転換を実施した。ソ連もこれに対抗せんとして急遽防衛費を増額したことで、財政危機におちいってしまった。この危機を乗り切るべくゴルバチョフ書記長は市場経済の導入を試みるも、エリツィン・ロシア大統領の独走もあってソ連は崩壊してしまった。
このあおりでストップしたのが、元々財政面で行き詰まっていた社会保障だ。苛烈なソ連支配もあって地酒であるウォッカの消費量が多く、肝臓病や腎臓病を患う国民性がロシアにあるのだが、社会保障がストップしたことでこれらの患者の治療が滞ることになった。透析治療の費用もまかなえなくなったために、放置されることになった。結果としてこの影響で約60万人が見殺しにされたといわれる。
経済力を越えるような身の丈に合わない社会保障は、土台維持できない。そればかりか、その無理がたたってはじけた時には、反って多大な犠牲を生んでしまうのだ。
ユートピアは存在しない
ここまで、スウェーデン、フィンランド、カナダ、アメリカ、ソ連の事例を挙げてきたが、どれも散々な結果に終わっている。ついでに言うと、イギリスも有名な「ゆりかごから墓場まで」のスローガンの元で高福祉政策を推進したが、現在それが重荷となって崩壊し始めている。そしてこれがブレグジットを引き起こす要因の1つになってしまった。
なぜ福祉の充実が悲劇的な結末を迎えるのか?その根底にある理由を、これまで見てきた事例から紐解く。
- 痛みや欲が伴わないとインセンティブが働かないから、支えられない
- 充実した社会保障は労働の必要性を失わせ、再就職がデメリットになる
- 依存者を増やし、自立する力を失う
- 手段の目的化が生じ、補助金ビジネスがはびこる
- 無制限の費用増大から身の丈に合わなくなり、破綻する
- 破綻した時の被害が甚大になる
こうしてみると、上手い話はないのがわかる。人間欲深いがゆえに理想的なユートピアを求めたくなるが、そんなものは存在しないし、作りえない。そこには必ず矛盾や歪みが生じるからだ。
にもかかわらず、人間は一度養われることを覚えると、幼児化して依存する。いつしかそれが当たり前になり、無償の権利として消費し続ける。それどころかまだ足りないと、国、行政、納税者に不満と怒りをぶつける。完全に逆ギレだ。そしてこの姿は古代ローマ帝国の末期の構図と同じである。
最も被害を受けるのが中間層
そしてこのあおりを受けて最もしわ寄せがいくのがどこかといえば、中間層である。高福祉によって増税を迫られ、生活が厳しくなるのは中間層。仕事量の増大による労働力不足で負担が増えるのも中間層。社会福祉の援助を受ける人の介助にあたるのも中間層。これによって没落していくのも中間層である。
そうなると、支える側と支えられる側のバランスが逆転して、破綻してしまう。中間層は生活すらできなくなり、貧困層へ落ちてしまう。富裕層も富裕層で逃亡を図らないと立ち行かなくなる。結局、福祉は悲劇の末路になるだけで、誰も救えなくなるのだ。
この人口減少社会で社会を維持するためには、手厚い保護ではなく、労働者のインセンティブを作ることなのだ。
























